実例から学ぶ税務の核心〈第33回〉ユーシーシーホールディングス事件 その1
週刊税務通信 No.3563 令和1年7月8日号に、熊本本部所長・岡野の記事が掲載されました。
実例から学ぶ税務の核心
~ひたむきな税理士たちの研鑽会~
<第33回>
ユーシーシーホールディングス事件 その1
解説
大阪勉強会グループ
濱田康宏
岡野訓
内藤忠大
白井一馬
村木慎吾
信託受益権の複層化,つまり,信託受益権を2以上に分ける(典型的には,収益受益権と元本受益権とに区分する)場合の取扱いについては,現状,様々な見解が存在する。ここでは,訴訟の中で登場した収益受益権の課税上の取扱いを確認する。本件は,M&AにおけるDDの怖さを確認する事例としても好適と思われるので,是非一読頂きたい。なお,今回は,収益受益権の取扱いを確認し,稿を分けて,次回以降でDDの問題について確認することとしたい。
1 事件の概要
(1)複層化された信託受益権の課税上の取扱いについての課税庁見解の存在
濱田)あまり知られていませんが,実は,複層化信託の課税上の取扱いについて,課税庁の見解を確認できる判決があります。大阪地裁平成23年7月25日判決(ユーシーシーホールディングス事件)です。
白井)この事件は,課税上の取扱いだけでなく,デューデリジェンス(DD)の専門家責任の怖さを理解することができるという点が見所です。
岡野)さて,この裁判の本丸は,株式譲渡契約の表明保証条項違反があるかどうか,そして,この条項に基づく補償金の支払請求が可能か,というものでした。
(2)株式譲渡契約の表明保証条項とは何か
村木)ここで,そもそも,この株式譲渡契約の表明保証条項とは何かについて,簡単に確認しておきましょうか。イメージ的には,日本の野球選手が,メジャーリーグの球団と契約した後,メディカルチェックを受けて,問題があると,報酬額が大幅にディスカウントされたり,契約そのものがご破算になります。それと同じようなものですね。
内藤)契約が済んだから安心というのではないということですね。で,表明保証条項というのは,買い手にとってのリスクとなるような点についてDDという監査が行われる前提として,その提示される情報に間違いがないということを売り手に表明させるものです。
濱田)虚偽が混じっていたら,契約の解除や損害賠償金の請求に繋がるということですね。
村木)雇用契約時点で学歴詐称があったら,解雇事由になるというのと似ているかもしれませんね。
(3)事件の流れ
白井)では,事件を見ていきましょう。これは,ユーシーシーホールディングス(以下,「UCC」という)が,ツインツリー社の株式買収に当たり,買収前の税務処理及び情報提供について問題があったとすることに基因する損害賠償請求事件です。
内藤)UCCによる株式買収時に,ツインツリー社は,シャディ株式を保有していました。
白井)株式買収そのものは,UCCがツインツリー社を取得する話ですが,そのツインツリー社が保有しているシャディ株式について,信託受益権が設定されていたという話なのですね。
(4)複層化された信託受益権の設定とその狙い
村木)そうです。ツインツリー社の持つシャディ株式には,以下のような信託契約が設定されていました(図1①)。
・信託財産:シャディ株式
・委託者:シャディ創業家大株主
・受託者:UBS信託銀行
・収益受益権者:社団法人日本ボランタリー・チェーン協会
・元本受益権者:シャディ創業家大株主
・信託期間:30年
濱田)受託者は,スイスの有名な金融持株会社の日本法人であったUBS信託銀行です。受益権は,複層化して,配当享受の収益受益権と元本受益権に分けました。
岡野)収益受益権は,日本ボランタリー・チェーン協会に渡されました。元本受益権を旧所有者たる委託者が持つスキームですね。
白井)公益目的団体に収益受益権を渡すやり方です。収益受益権分だけ元本受益権の相続税評価額が下がることが狙いだったのでしょう。
内藤)相続税対策の視点で提案を受けて実現したものだったのでしょうね。
村木)恐らくですが,この後のUBSの撤退がなければ,この事件は起きなかったかもしれません。
なお,この創業家が持つ元本受益権は,株式の譲渡所得課税の改正への対処から,UCCによる買収前に,ツインツリー社に売却されます(図1②)。なので,買収時(図1④)にツインツリー社は,シャディ株式を保有していると。
ポイント 株式について信託受益権の複層化を行い,収益受益権を公益目的団体に寄贈することで,相続税評価額の引下げも実現しようとするスキームは,以前から,信託銀行により提案・実行されてきた。
(以下略)
(熊本本部スタッフ)
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