実例から学ぶ税務の核心〈第55回〉不動産評価における総則6項の適用(その1)

週刊税務通信 No.3653 令和3年5月10日号に、熊本本部所長・岡野の記事が掲載されました。

実例から学ぶ税務の核心

~ひたむきな税理士たちの研鑽会~

<第55回>

不動産評価における総則6項の適用(その1)

大阪勉強会グループ
濱田康宏
岡野訓
内藤忠大
白井一馬
村木慎吾

1 はじめに~総則6項序説
濱田)  皆さん,確定申告お疲れ様でした。昨年に続き,今年も申告期限が1か月間延長されましたが,4月15日をもって,すべての申告が終了しましたね。ここ数か月間は,所得税の世界にどっぷり浸かっておられたでしょうから,今回は資産税の分野を取り扱いましょう。採り上げるテーマは「財産評価基本通達総則6項」についてです。

内藤)  総則6項による否認事例については,このシリーズでも,第8,9回( №3453 , 3456 )で,事業承継スキームをクローズアップした際にも取り扱いました。

村木)  今回は,不動産の評価における総則6項の適用事例を採り上げるということですね。

岡野)  そうです。遡ること30年前のバブル経済時代には,相続直前に不動産を取得し,相続発生後にすぐさま売り抜けて,金銭的目減りを極力抑えた上で,相続税評価のみを圧縮させるスキームが横行していたようですね。

白井)  私はまだ学生でしたので,バブル経済を社会人として経験したわけではないですが,聞いたところによると,銀行借入で不動産を取得して,相続発生まで持ち続けた後に売却すれば,目減りどころか,むしろ買ったときよりも高い値段で売れるということもあったようですね。

濱田)  相続発生後にすぐに売却するのは何故ですか?

内藤)  収益物件であれば,賃貸収入で返済することが可能かもしれませんが,賃貸を予定しない不動産の購入も多かったようです。そのようなケースだと,売却しない限り,銀行への返済がままならなかったのではないでしょうか。

濱田)  なるほど。そうすると,税務調査を受ける段階では,すでに,売却代金まで確定しているというケースが多かったということでしょうか。

村木)  どのくらいの件数だったのかは定かではありませんが,そのようなケースで,当時,最初に総則6項が適用された判決は,東京地裁平成4年3月11日判決とされています。

岡野)  簡単に事件の概要を説明すると,まず,昭和62年12月の相続開始直前の同年10月に借入をして7億5,850万円のマンションを取得しています。相続発生前わずか2か月ですね。そして,相続発生後の翌年4月から7月にかけて,本件マンションを7億7,400万円で売却し,借入金を返済したという事例です。

内藤)  改めて,総則6項をみておきましょうか。財産評価基本通達第一章「総則」の第6項に規定があります。

6(この通達の定めにより難い場合の評価)

この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する。

村木)  通達では,総則6項の適用要件を「著しく不適当」としていますが,裁判所では,「特別な事情がある場合」という言葉に置き換えられていますね。

岡野)  おっしゃる通り,上記裁判のみならず,この後に出て来る裁判例をみても,「著しく不適当」か否かを直接判断するのではなく,評価通達によらない評価方法が許されるための「特別の事情」の有無によって,適用の可否を判断しています。

ポイント  総則6項は「特別の事情」が裁判例での判断基準となっている。

(以下略)

(熊本本部スタッフ)