実例から学ぶ税務の核心〈第18回〉中小企業における役員退職給与と平成29年度税制改正
週刊税務通信 №3498 平成30年3月12日号に、熊本本部所長・岡野の記事が掲載されました。
実例から学ぶ税務の核心
~ひたむきな税理士たちの研鑽会~
<第18回>
中小企業における役員退職給与と平成29年度税制改正
解説
大阪勉強会グループ
濱田康宏
岡野訓
内藤忠大
白井一馬
村木慎吾
平成28年度・29年度の連続改正により役員給与税制がどう変わって,中小企業実務にどう影響しているのか分からないという声をよく聞く。
ここでは,役員退職給与に関する新設通達の意味や経過措置など,実務家として最低限知るべき事項を中心に整理してみた。内藤)
1 法人税基本通達9-2-27の2 の意義と平成29年度税制改正
濱田) 平成29年度税制改正で,役員退職金についての改正が行われ,通達新設がされているものがあります。9-2-27の2ですが,これは,どのような内容なのでしょうか。
(業績連動給与に該当しない退職給与)
9-2-27の2 いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は, 法第34条 第5項《業績連動給与》に規定する業績連動給与に該当しないのであるから,同条第1項《役員給与の損金不算入》の規定の適用はないことに留意する。
(注) 本文の功績倍率法とは,役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として,役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法をいう。
内藤) この通達を理解するには,まずは,平成29年度税制改正で行われた役員給与の改正における業績連動給与の規定を大まかにでも理解しておく必要がありますね。
岡野) 従来は,利益連動給与と呼ばれていた類型ですね。平成29年度税制改正のポイントの1つとして,今までは対象外だったストックオプション・株式報酬・役員退職給与についても,業績連動給与に該当し得るようになったことが挙げられます。その結果,業績連動給与になると,一定の損金算入要件を満たした場合のみが,損金算入可能という建付けに変更されています(以下,下線は筆者)。
( 改正前法人税法34条 1項3号)
第34条 (役員給与の損金不算入)
内国法人がその役員に対して支給する給与( 退職給与 及び第54条の2第1項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する新株予約権によるもの並びにこれら以外のもので使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの並びに第3項の規定の適用があるもの を除く 。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない。
一・二 略
三 同族会社に該当しない内国法人がその業務執行役員(業務を執行する役員として政令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)に対して支給する利益連動給与で次に掲げる要件を満たすもの(他の業務執行役員の全てに対して次に掲げる要件を満たす利益連動給与を支給する場合に限る。)
(以下略)
(改正後 法人税法34条 1項3号)
第34条(役員給与の損金不算入)
内国法人がその役員に対して支給する給与( 退職給与で業績連動給与に該当しないもの ,使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第3項の規定の適用があるもの を除く 。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない。
一・二 略
三 内国法人(同族会社にあっては,同族会社以外の法人との間に当該法人による完全支配関係があるものに限る。)がその業務執行役員(業務を執行する役員として政令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)に対して支給する業績連動給与(金銭以外の資産が交付されるものにあっては,適格株式又は適格新株予約権が交付されるものに限る。)で,次に掲げる要件を満たすもの(他の業務執行役員の全てに対して次に掲げる要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限る。)
(以下略)
村木) 法人税法34条 1項柱書における除外規定の変更に着目して頂ければよいわけですね。
白井) 簡単に言えば,有価証券報告書に業績連動指標等の開示を行うなどの手続がない限り,ストックオプションなども業績連動給与に該当した場合には,損金にはならない,ということになったわけです。
内藤) 法令には存在しない言葉ですが,業績連動給与に該当し,なおかつ,損金算入要件を満たすものを,ここでは適格業績連動給与と呼び,満たさないものを非適格業績連動給与と呼びます。
(以下略)
(熊本本部スタッフ)
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