実例から学ぶ税務の核心〈第19回〉代表者役員報酬の不相当高額否認の衝撃
週刊税務通信 №3502 平成30年4月9日号に、熊本本部所長・岡野の記事が掲載されました。
実例から学ぶ税務の核心
~ひたむきな税理士たちの研鑽会~
<第19回>
代表者役員報酬の不相当高額否認の衝撃
解説
大阪勉強会グループ
濱田康宏
岡野訓
内藤忠大
白井一馬
村木慎吾
役員給与について,代表者報酬の不相当高額否認事例というのは,これまで実務ではまず出会うことがなかった。今回登場した裁決例では,否認の論理を確認して,今後の実務における心構えを探ってみたい。
1 東京地裁平成29年10月13日の平均功績倍率50%加算額を役員退職給与相当額とした判決について
岡野) いきなり今日の本題から外れますが,昨年10月13日に出た東京地裁の役員退職給与の50%加算判決はビックリでしたね( №3487 参照)。
【東京地裁平成29年10月13日判決】
課税庁が算定した平均功績倍率3.26について,50%加算した4.89を功績倍率として用いて算定した役員退職給与額を相当額と認めた事案
村木) いや,流石にあれでは実務が維持できないでしょうから,課税庁が控訴したのは当然です。
白井) 平均功績倍率の問題点に焦点を当てているという意味では,面白さもあるのですけどね。
「平均功績倍率を少しでも超える功績倍率により算定された役員退職給与の額が直ちに不相当に高額な金額になると解することはあまりにも硬直的な考え方であって,実態に即した適正な課税を行うとする 法人税法34条 2項の趣旨に反することにもなりかねず,相当であるとはいえない。」
このあたりは,なるほどです。
内藤) 平均功績倍率を1円超えてもダメというのは不合理で,バッファーがあってもいいではないか,というのは理屈として分かります。
しかし,いくらなんでも,説明なしで功績倍率を50%加算するというのは,実務の常識として,あり得ないとしか言えないでしょう。
濱田) 確かに,高裁で蹴られて,何の不思議もないですね。
というより,これで通るのなら,今まで蹴られた納税者達が死んでも死にきれなくて,ゾンビになって出てくるでしょう。
岡野) 地裁の裁判官は,時折,世間が仰天するような判決を出しますね。しかし,その多くは,その後の控訴審や最高裁で否定されるように思います。
村木) そう言われれば,かつてこの業界で一世を風靡した藤山判決などはまさにその典型ですね。ウルトラCのような理屈で納税者勝訴を連発しましたが,そのほとんどが控訴審や最高裁で逆転納税者敗訴になっています。
白井) あの当時,藤山裁判官を救世主のように称えた人々もいましたが,信じられませんでした。勝てばいいというものではなく,やはり,筋道が大事でしょう。
内藤) そう思います。脱線ついでに話をすれば,藤山裁判官は,現在名古屋高裁にいるようで,デンソー事件で再度注目を浴びました。
納税者勝訴の地裁判決を覆して,国を勝たせて騒ぎになりましたね。
名古屋地裁判決 H26/09/04 納税者勝訴
名古屋高裁判決 H28/02/10 納税者敗訴
(藤山裁判長判決)
最高裁判決 H29/10/24 納税者勝訴
岡野) あれも,結局,最高裁で納税者勝訴になったのでしたね。パフォーマンスが好きな裁判官というと,怒られますかね。
村木) 今世の中では,多分冒頭の判決の方がホットなのですが,高裁判決くらいが出ないと,ちょっと扱いにくいですね。
ということで,本日は,別に注目すべき事件を扱いましょう。
岡野) しばらく実例テーマから離れていましたので,そろそろ実務を扱わないと,標題倒れと言われてしまいますしね。
(以下略)
(熊本本部スタッフ)
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